理事長挨拶(2021年3月27日)
2021.3.27 理事会挨拶
野田浩夫
外は桜が満開のようですが、今年もお花見は出来そうにありません。人々の間に十分な触れ合いがない日が1年以上続き、特に大都市部において医療システムや低所得層の生活がみるみる壊れていくのを目の当たりにしていると、戦争でなくっても感染症によって社会はこんなに容易に極限に追い込まれてしまうのだなという気が改めてします。
3月18日の朝日新聞「社会季評」に東畑開人さんという著名な臨床心理士の人が、イギリスの「孤独担当相」の日本版として内閣官房に「孤独・孤立対策室」が置かれ担当大臣として少子化相が充てられたことなどについて書いています。
(資料1)として添付しました。
「豊かな孤独の時間」は誰にも必要だが、過去に暴力や虐待を受け、心の中に「お前は迷惑だ、無価値だ、気持ち悪い」と常にささやく他者が住み着いている「暴力的な孤独」が、ここで問題となる孤独の本質だ。そういう人が容易に心を開くわけもなく、支援しようとする人を孤独に追い込むー「氷に触れると手が凍る」と彼はそれを表現しています。
一本の支援の線などはなく、支援する人を支援する無数のつながりがあって、人間的な社会が成立する。
「孤独の連鎖に対しては、支援の連鎖を」というのが東畑さんの結論です。もはや常識になった「伴走型」の支援を自分たちの課題とする私たち医療生協もこのことは十分に心しても向かい合わないといけないと改めて考えるところです。
ちょっと横道にそれますが、この東畑さんという名前を憶えてしまうと、自分が定期購読している雑誌「現代思想」2月号「特集 精神医療の最前線」の巻頭が「オープン・ダイアローグ」で有名な精神科医齋藤 環さんと東畑さんの討議「セルフケア時代の精神医療と臨床心理」でした。
その中でコロナ事態の中で女性の自殺が増えている件、たとえば2020年10月で比べると男性が22%増なのにたいして、女性が83%増であることがテーマに取り上げられています。 斉藤さんが言うには「自殺に先駆けて精神疾患の発病、とくにうつ病があるのは常識的なことであり、日常的にそれは女性の方が罹患率が高い。しかし日常的な自殺遂行数では男性が女性の数倍になっている。実はこの逆転の理由を説明する定説はない。自分=齋藤の仮説では、女性の方がソーシャル・キャピタルに恵まれ、援助を求めやすいところにその理由があるのだろう。しかし、コロナ事態においては女性のソーシャル・キャピタルがダメージを強く受け、うつの罹患率に比例するような女性の自殺数増加につながっているのではないか」ということでした。これを東畑さんは実に鮮やかな解釈だと言っています。
私としては、齋藤さんが「女性の方が精神疾患発病率が高い理由は、男女差別、男性による女性の抑圧によるのであり、女性がソーシャル・キャピタルを発達させたのも自己防衛によるのではないか」とまで書いてくれるともっとわかりやすいと考えたのですが、それはまだ学問的証明がないのだろうと思います。
さて、支援活動に話を戻しますと、山口での支援活動からみると状況はさほど以前から大きく変わったようには見えないのですが、大都市部からの報告を読むとコロナ事態の中での、日本の社会保障の壊れっぷりに驚きます。
(資料2)として添付していますが、雑誌「住民と自治」3月号にあった瀬戸大作さんのレポートは必読です。
私たちの周りで「無低」というと「無料低額診療」のことですが、世間でいうと「無料低額宿泊所」のことです。
生活保護を受給させないために水際作戦があるのは有名ですが、新たな方法として、ホームレスの人が生活保護を申請したら劣悪な無料定額宿泊所に無理やり入所させて地獄を見させる、いわば「上陸後作戦」とでもいうべきものが発明されているようです。6畳しかない4人部屋に閉じ込めて、そこでは暴力が横行し、外出させずハローワークに行かせず、低賃金の無低運営の職員として縛り付けるという経過を経て生活保護受給がやっと始まるというわけですから脱走者が絶えません。
生活保護申請には必ず同行者を付けるというのが支援の鉄則になっていると言えます。
その他、まったく無権利で放り出されるクルド人など外国人の人権も大問題になっています。ぜひご一読ください。
これに関連する、小林美穂子さん執筆の週刊女性の記事も、(資料3)として収録しましたのでお読みいただきたいと思います。
東京都などが対象の緊急事態宣言は解除されましが、このような生活破綻は大都市部でもさらに拡大し必ず地方にも波及することと予想されます。
今年度の私たちの一つの主要課題として改めて自覚していきたいということを最後に申し述べて私の挨拶といたします。
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